西暦20××年。
あるさびれた路上に、けたたましい音を立てて稲妻のようなものが落ちた。
もくもくと立ちのぼる煙が晴れると、次第にムキムキの裸体でひざまずいている1人の男の姿が浮き上がってきた。
男の手は敬虔(けいけん)な姿勢で組まれており、それは天の神に祈りを捧げる模範的クリスチャンのそれであった。
ターミネーターの”Jesus1000型”、通称“J−1000型”だ。
“J−1000型”とは、クリスチャンが極端に少なくなった未来からやってきた、大変熱心な伝道マシーンのこと。
ターミネーターを送り出したのは、未来のクリスチャン唯一の生き残り、牧師ジョン・コナーである。
科学技術の著しい進歩により、神に背く人間で溢れかえっている中、牧師ジョンは最後の力を振り絞り、このとんでもない禁断のマシーンを世に生み出したのだった。
ターミネーターは、立ち上がると、早速周りの人間たちに神のことを伝えようと歩き出した。
服を着ようかとも考えたが、誰かから奪うのは神に背く行為なので、全裸のまま伝道することにした。
ちょっとお時間いいかな?私は”キリスト教”のクリスチャンだ。
人間というのは、
アダムとイブの時代から罪を犯し続けている。
2人が禁断の果実に手を出すまでは、裸でも平気だったというのに!
でも、
イエス・キリストはその罪を全て背負って死んでくださったのだ!
こんな罪深い私のために。
どうだろう、ここは1つ、私とともに神の
福音を伝えるためにひと肌脱いでみないか?
やはり、手伝ってはくれないか。。最後まで話を聞いてくれてありがとう。
恩に着る。
通行人とこんなやり取りをしていると、甲高いサイレンとともに警察がやってきた。
ターミネーターの姿を見た人々の悲鳴が、周囲に響き渡っていたからだ。
なんだ、邪魔をしないでくれ。
私は今、神の愛を赤裸々に伝えているところなのだ。
服を手に入れるためには、誰かから奪わなくてはならない。
そんな神に背く恥ずかしい行為ができるか!
それにしても、そんないかついバイクに乗ってくるとは。なかなかワイルドじゃないか。
言ったろ?神の愛を伝えていると。
何しろ、未来のクリスチャンたちの命運がかかっているんだ!
このままだと、この世界は悪に染まってしまい、神を知る気高き戦士たちはみな滅びてしまうだろう!!
恐ろしいとは思わんかね?
ふむ、仕方ない。。そんなに私が怪しいと思うなら、ボディチェックでもしてみるか?
突然現れた癖に、君たちは随分と偉そうだな。
神の前で何と無礼な!恥を知れ!
そもそも君たちは何者だ。私の伝道の邪魔をするとは!
我々は、この街の治安を守っている警官だ。
ゴリゴリの裸体で神を語る変質者が現れたと聞いて来たが、想像をはるかに超えていたな。
それは君たちの想像力が足りないからだ。
私はいつも、これから起こるであろう危機をシミュレーションして動いている。
あれ、これじゃあ、ターミネーターじゃなくて、”シーミュレーター”だな。
なーんつって!クリスチャンジョーキング!!ハッハッハッハッハ!!
埒(らち)のあかないやりとりが続く中、ターミネーターはふとひらめいた。
自分を生み出した牧師ジョン・コナーに会えれば、自分のことを理解してくれるのではないかと。
ターミネーターは警察から逃げ出すと、ジョンを探しに走り出した。
たくさんの悲鳴を背中に浴びながら、ターミネーターは思ったよりも早くまだ幼きジョンの家にたどり着くことができた。
人々がすごい勢いで道を開けていくので、走りやすかったのである。
家の前で1人バスケをしているジョンに、ターミネーターは声をかけた。
突然で信じられないかもしれないが、私は君が生み出した伝道マシーンだ。
実は、今から少し先の未来に、クリスチャンが滅びることになっているんだ。
君にも危険が迫っている!
でも、この話をしても誰も信じちゃくれないんだ。
だから、未来で私を生み出すことになる君なら理解してくれると思ってね。
とにかく、早く伝道をしてクリスチャンを増やさなくては手遅れになる。
偉大なる牧師ジョン・コナー、これからどうしたらいいのか私にアドバイスをくれないか?
じゃあ、1つだけ言わせてもらうね。”今すぐ服を着ろ”
まあ、立ち話もなんだから、家に入れてくれ。
安心してほしい、何も凶器などは持っていないから。
ジョンとターミネーターが家の中に入ろうとすると、ターミネーターはふと何かを思い出したかのように立ち止まった。
この後、私と同じ姿のターミネーターが2機ここに来るからよろしく頼む。
その後、牧師ジョン・コナーがターミネーターを全力で破壊したのは言うまでもない。
ー完ー
作者からの一言
色々とすみません。(陳謝)
ではまた!
【ドラえもん】もし、ドラえもんがクリスチャンだったらある日、のび太がいつものごとく、ジャイアンとスネ夫にいじめられてワンワン泣きながら帰ってきました。
そして、ドラえもんに泣きついて...